自分のスタイルを貫き通す生き方って大変だけどカッコイイよね。何よりそれが一番、自分らしい。「さよなら私のクラマー」
自分らしさって何だろう?自分にしかできないことって何だろう?オンリーワンは極めるべきこと?何があっても好きなことは諦めず、やり続けた方が良い?まわりに流されず、自分の信念は貫き通すべき?この作品・この主人公を観ていると、自分の頭の中にいろんな?がたくさん浮かんできます。作品の中で多くの問題提起がなされていることもあり、それを観るとフィールドは違えど、現状の私自身に対しても様々な問いかけをされているような気がしてなりません。
今回紹介いたします作品は、日本女子サッカーをとりあげたスポーツアニメ「さよなら私のクラマー ファーストタッチ」劇場版映画&「さよなら私のクラマー」TVアニメ版です。私の大好きな作品「四月は君の嘘」を描いた漫画家・”新川 直司”さんによる同名漫画が原作です。
劇場版映画は、2009年~2010年に月刊少年マガジンの増刊誌「マガジンイーノ」(講談社)で連載された「私のフットボール」が原作となっております。物語の大筋は、男の子と同じサッカースポーツ少年団で一緒にプレーするサッカーが大好きな女の子、主人公”恩田 希(おんだ のぞみ)”の姿を描いております。類まれなサッカーセンスと才能で男の子以上に活躍する彼女ですが、中学生になると男子との体格差・身体能力の差が出始め、持ち前のボールコントロールだけでは立ち打ちできなくなってきた中学2年の彼女。しかし彼女は男子サッカー部の中でそんなことはお構いなしに自分のサッカースタイルを貫き通そうと誰よりも努力を重ねます。そんな彼女の情熱みなぎる悪戦苦闘の青春を描いた漫画をアニメ化したものがこの劇場版映画です。
希が住んでいる地域には中学校に女子サッカー部はなく、クラブチームもないため、彼女は中学の男子サッカー部に所属していた。中学ともなると男子との体格差や体力差、いわゆるフィジカル面の差が現れ始め、ある試合の中で希は男子とぶつかって怪我を負ってしまう。それ以降、よりハードなプレーを要求される公式戦は怪我をするリスクが高くとても危険なため、「公式戦には出場させることはできない」と監督に言われ、希は試合に出れなくなってしまう。それでも希は試合に出ることを諦めず、出場機会が訪れることを信じて毎日、誰よりも練習に励んだ。
ある日、希は街中でかつてのスポ小のチームメイト、”ナメック(谷 安昭)”に出会う。希の誘いでサッカーを始めたナメック。希より小さく、希のことを親分と慕っていつも後ろにくっついていたスポ小時代の軟弱だった彼は、以前とは見違えるくらい大きくたくましく成長していた。一緒にいたナメックの後輩二人によれば、彼は江上西中学校サッカー部のキャプテンをしているようだ。藤第一中学校の男子サッカー部に所属してサッカーを続けているという希の今を知った彼は、希に対して挑発的な発言を投げかける。「サッカーはフィジカルだ。女のお前に何が出来る」と。対して希は「新人戦の試合で決着をつけてやる」とナメックに啖呵を切るのだった。
どうにか新人戦の公式試合に出てナメックと勝負したい希は、あの手この手を使って監督に猛アピールを試みる。しかし、監督は決して首を縦に振らない。それを観ていた同じスポ小出身の幼馴染で今もチームメイトである”タケ(竹井 薫)”と”テツ(山田 鉄二)”は、どうにか希を試合に出れるように協力をする。果たして希は新人戦・公式試合に出て旧友ナメックと決着をつけることが出来るのだろうか?

「さよなら私のクラマー」TVアニメ版は、この主人公”恩田 希”の高校時代を描いております。一人孤独だった中学時代を経て、高校では新たな価値感を持って女子サッカー部に入部し、サッカーを愛する女子の仲間たちと同じ目標に向かってサッカーに全力を注ぐ、彼女の青春ストーリーです。女子と一緒にサッカーをやっていたら自分のレベルが落ちてしまうという、彼女なりの理由で女子サッカーには興味がなかった彼女が女子サッカーに籍を移すこととなるエピソードは、劇場版アニメとTV版アニメにまたがっております。
そのあたりのお話もありますし、時系列でいくと、主人公”恩田 希”のサッカーとの出会いと、女子でありながら男子と同じ環境でハンデをものともせず、ひたむきにサッカーに打ち込む彼女の中学時代の姿を先ずは劇場版でご覧いただきたいと思います。それを観た上でTVアニメ版「さよなら私のクラマー」をご覧いただくと、TV版アニメから見るよりもお話が理解しやすく、面白さが2・3割アップいたします。
こちらのTV版の原作漫画は、「月刊少年マガジン」2016年6月号~2021年1月号まで連載され、全14巻が発行されています。原作をもとにTVアニメ化されて2021年4月~6月に”日テレBS”で全13話が放送されました。インターネットでは”dアニメストア”、”Amazonプライム・ビデオ”、”U-NEXT”の他、多くのチャンネルで配信されております。監督/”宅野 誠起”さん、脚本/”高橋 ナツコ”さん、キャラクターデザイン/”伊藤 依織子”さん、アニメーション制作/”ライデンフィルム”です。
日本男子サッカーと比較され、まだまだ人気スポーツと言い難い女子サッカーそのものの在り方と、それを支えている女子サッカー選手たちの様々な姿、そして日本女子サッカーを明るい未来へと牽引しようと努力するサッカー指導者たちにもスポットが当てられ、多面的に構成された”ドキュメンタリーチックかつ情熱的な、”女子熱血スポ根アニメ”に仕上がっております。
原作者の新川 直司さんは、日本女子サッカーが抱える現状課題をストーリーに織り交ぜながら描くことで、読者に女子サッカーにもっと注目してほしい、というメッセージ性を持たせながら作品を世に出されたような気がします。女子サッカーが強くなるためには競技人口が増えることは必須であり、先生はそれも想定した上で女子サッカー漫画を観てサッカーをやってみたくなる女子が増えるよう、カッコイイ女子を描いたのかな、なんて想像もいたします。
サッカーでは、カッコイイ足技・トリッキーな足技がいくつもあります。作品に出てくる彼女たちは時に試合の中で男子顔負けの足技プレーを披露してくれています。例えば、ドリブル中に相手に背中を見せながら体を反転して一瞬で反対方向へ切り返しドリブルで相手を抜き去る、フランス代表のジダン選手の代名詞”マルセイユ・ルーレット”。あるいは、ボールをまたいでフェイントをかけるドリブル”シーザス”。足の甲の外側(アウトサイド)で右に運ぶと見せかけて一瞬で足の甲の内側(インサイド)に乗せ換えて左に切り返すドリブル”エラシコ”など。女子サッカーアニメと侮るなかれ、「キャプテン翼」に出てくるアクロバティックな足技とは違った、サッカー上級者なら使いこなせるリアルでファンタスティックな個人技をとくとご覧下さいませ。

中学まではサッカーにおいては男女の区別を意識していなかった希。女子と一緒にサッカーをやっていたら自分の能力が衰えてしまうとまで彼女は思っていました。しかし、中学のサッカー部の顧問に希は諭されるのです。「高校に行ったら男女のフィジカル面の差はますます広がり、試合にはもっと出れなくなる。お前はそれでいいのか。せっかくの才能を埋もらすな。お前の力で女子サッカーを盛り上げていくんだ」と。
高校生になった希は埼玉県立蕨青南(わらびせいなん)高校の女子サッカー部に入ります。今まで男子サッカーしか知らなかった希ですが、同じチームに才能のある女子が何人かいることがわかり、次第に希の心はワクワクし始めるのでした。弱小だった蕨青南高校ですが、新1年生の中には俊足フォワードの”周防(すおう)すみれ”、中学全国3位になった戸田北中学のミッドフィルダー(司令塔)でU-15日本代表だった”曽志崎 緑(そしざき みどり)”がいたのです。一緒にプレーしてみて女子サッカーもまんざらでもない手ごたえを感じた希。
そんな弱小・ワラビーズに、女子サッカー界のレジェンド・元日本代表の”能見 奈緒子”がコーチとして就任するのでした。実は、能見は蕨青南高校の卒業生だったのです。着任早々、能見は全国優勝もたびたび果たすほどの神奈川県の強豪、久乃木学園と練習試合を組むのです。それは能見コーチのかつての恩師が久乃木学園の現監督をしているという人脈あっての特別な計らい。全国トップレベル高校と戦ってコテンパンにやられ、今の自分たちの実力を知ってなお這い上がれるチームかどうかを見極めるテストマッチと能見は考えていたのです。
当然ながら 力の差は歴然。21対0のシャットアウトで蕨青南は大敗します。女子でもすごいやつがいることを知った希は、打倒・久乃木学園を誓うのでした。しかし、久乃木学園とリベンジマッチを果たすためには蕨青南高校自身が実力で大会公式戦を勝ち進み、埼玉県代表校となって関東大会で久乃木学園と当たらなければ再戦はできないのです。同じ県下には、全国大会常連校の浦和邦成もいて、彼女たちの前に大きな壁となって立ちはだかります。
希たちはとてつもないその大きな目標に向かって突き進む決意をします。先ずは埼玉県代表になる。そのために私たちは強くなると。強くなるためには男子サッカー部と一緒に練習をさせてもらって実力をつける。しかし、世の中そんに簡単に事は運ばず・・・。能見コーチはコーチで、攻めの選手だったので攻め方は教えられるのですが守備の指導や戦術についてはからっきし駄目だったのです。課題が山積みのワラビーズ。彼女たちは本当に強くなれるのでしょうか?久乃木学園と再び戦う日は訪れるのでしょうか?
劇場版・TV版、どちらの作品も、主人公・恩田 希の真っ直ぐな生き方が作品の軸と言えるでしょう。サッカーが好きだからひたすら練習する、試合に出たいから監督に魅せるプレーで猛アピール、試合で自分が得点を決めたいから、ボールが回ってくるまでは力を温存し、ここぞというチャンスに集中して全力でゴールを目指す、自分のプレースタイルは絶対に変えない(テクニックで相手をかわしてゴールする) 。

すべては希が自分でやりたいこと、成し遂げたいことに向かっての積み重ね・行動なんだと思います。それを推し進める強い気持ちこそが彼女の原動力。サッカーの中では、人々を魅了するプレーをする人のことを”ファンタジスタ”と呼びます。特に攻撃のポジション(ゴールを決める)の人に使われる言葉で、特別な人だけがそう呼ばれます。彼女のサッカーは目指すところ、人々を魅了するようなサッカー、そして成りたいのはそのファンタジスタ”なのでしょう。周りもきっと、彼女にそのファンタジスタになってもらいたいと期待を込めています。日本の女子サッカーの未来も同時に託して。
かつての日本女子サッカーチームは、2011年FIFA女子ワールドカップ・ドイツ大会において、日本男子でさえも前人未踏である”優勝”という偉業を華々しく成し遂げたのでした。ちなみに”なでしこジャパン”を優勝に導いた立役者”澤 穂希”さんは大会得点王&大会最優秀選手賞の栄誉も手にしました。その大躍進は、東日本大震災が起こったその年のとても晴ればれとした出来事であり、日本人にとって大変勇気づけられるトピックスだったと思います。その翌年にはロンドンオリンピックで銀メダルにも輝いています。男子サッカーの存在に埋もれていた女子サッカーですが、これらの出来事で一気に女子サッカーが注目されることとなります。
しかしながら、ワールドカップ6度出場のギネス記録保持者でもある日本女子サッカー界のレジェンド・澤さんが2015年に引退して以降、大きな国際大会での日本の戦績はやや後退しており、澤さんに代わるようなスーパースター選手も鳴りをひそめてしまったかに見えるのが現状です。これから先、好戦績とスーパースターの存在という歯車がうまく噛み合うことが出来れば、日本女子サッカーは再び輝きを取り戻すことが出来るでしょう。そうした日がまた訪れることを私も願っております。
この作品、「さよなら私のクラマー」というタイトルの中の”クラマー”とはいったい何なのか?どこからきているのか気になりませんか?クラマーとは人の名前です。ドイツ・ドルトムント出身のサッカー選手であり、サッカーの指導者でもあったデットマール・クラマー。彼は1960年に日本サッカー界に招かれた外国人コーチで、サッカー日本代表の基礎を作った人であり、日本サッカーリーグ創設にも尽力されたことから、「日本サッカーの父」と言われています。
原作者の新川先生はサッカーが好きで、彼が亡くなった後に彼を忍んでこのタイトルをつけたのではないかと言われているようです。それともう一つ、日本サッカー界において、サッカーは男性だけのスポーツという枠から早く女子サッカーが脱却して、女子独自のサッカーというポジションを確立すべく未来へ独り歩きしていってほしいという願いもあり、このようなタイトルをつけたのでは?という説もあります。いずれにしてもとても感慨深いタイトルだなって思います。
人より抜きん出た才能を持つ人は希少なだけに我々の知らない孤独との戦いも背負っているようです。個人プレーならそれもありですが、チーム競技では競技人口が少ないことでその才能が伸び悩む危険があるという事も無きにしも非ず、という事でしょうか。一人の少女のサッカープレースタイルから見える、自分のしたいことを貫き通すぶれない生き方、あるいは決して途中で投げ出さない、最後まであきらめない気持ちの持ち様など学ぶべきところもたくさんあります。また、女子サッカーの課題から見える、各スポーツやその他の組織にも繋がる組織づくりの在り方など、結構、奥深いことまで描かれている作品かと思われます。女子サッカーに興味がある人にはもちろん、そうでない人にも十二分に楽しめる作品ですので、ぜひ、一度ご覧くださいませ。
オープニングテーマ「AMBITIOUS GOAL/小林 愛香」
見る参考になったよ、という方はぽっちいただけるとうれしいです。

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今回紹介いたします作品は、日本女子サッカーをとりあげたスポーツアニメ「さよなら私のクラマー ファーストタッチ」劇場版映画&「さよなら私のクラマー」TVアニメ版です。私の大好きな作品「四月は君の嘘」を描いた漫画家・”新川 直司”さんによる同名漫画が原作です。
劇場版映画は、2009年~2010年に月刊少年マガジンの増刊誌「マガジンイーノ」(講談社)で連載された「私のフットボール」が原作となっております。物語の大筋は、男の子と同じサッカースポーツ少年団で一緒にプレーするサッカーが大好きな女の子、主人公”恩田 希(おんだ のぞみ)”の姿を描いております。類まれなサッカーセンスと才能で男の子以上に活躍する彼女ですが、中学生になると男子との体格差・身体能力の差が出始め、持ち前のボールコントロールだけでは立ち打ちできなくなってきた中学2年の彼女。しかし彼女は男子サッカー部の中でそんなことはお構いなしに自分のサッカースタイルを貫き通そうと誰よりも努力を重ねます。そんな彼女の情熱みなぎる悪戦苦闘の青春を描いた漫画をアニメ化したものがこの劇場版映画です。
希が住んでいる地域には中学校に女子サッカー部はなく、クラブチームもないため、彼女は中学の男子サッカー部に所属していた。中学ともなると男子との体格差や体力差、いわゆるフィジカル面の差が現れ始め、ある試合の中で希は男子とぶつかって怪我を負ってしまう。それ以降、よりハードなプレーを要求される公式戦は怪我をするリスクが高くとても危険なため、「公式戦には出場させることはできない」と監督に言われ、希は試合に出れなくなってしまう。それでも希は試合に出ることを諦めず、出場機会が訪れることを信じて毎日、誰よりも練習に励んだ。
ある日、希は街中でかつてのスポ小のチームメイト、”ナメック(谷 安昭)”に出会う。希の誘いでサッカーを始めたナメック。希より小さく、希のことを親分と慕っていつも後ろにくっついていたスポ小時代の軟弱だった彼は、以前とは見違えるくらい大きくたくましく成長していた。一緒にいたナメックの後輩二人によれば、彼は江上西中学校サッカー部のキャプテンをしているようだ。藤第一中学校の男子サッカー部に所属してサッカーを続けているという希の今を知った彼は、希に対して挑発的な発言を投げかける。「サッカーはフィジカルだ。女のお前に何が出来る」と。対して希は「新人戦の試合で決着をつけてやる」とナメックに啖呵を切るのだった。
どうにか新人戦の公式試合に出てナメックと勝負したい希は、あの手この手を使って監督に猛アピールを試みる。しかし、監督は決して首を縦に振らない。それを観ていた同じスポ小出身の幼馴染で今もチームメイトである”タケ(竹井 薫)”と”テツ(山田 鉄二)”は、どうにか希を試合に出れるように協力をする。果たして希は新人戦・公式試合に出て旧友ナメックと決着をつけることが出来るのだろうか?

「さよなら私のクラマー」TVアニメ版は、この主人公”恩田 希”の高校時代を描いております。一人孤独だった中学時代を経て、高校では新たな価値感を持って女子サッカー部に入部し、サッカーを愛する女子の仲間たちと同じ目標に向かってサッカーに全力を注ぐ、彼女の青春ストーリーです。女子と一緒にサッカーをやっていたら自分のレベルが落ちてしまうという、彼女なりの理由で女子サッカーには興味がなかった彼女が女子サッカーに籍を移すこととなるエピソードは、劇場版アニメとTV版アニメにまたがっております。
そのあたりのお話もありますし、時系列でいくと、主人公”恩田 希”のサッカーとの出会いと、女子でありながら男子と同じ環境でハンデをものともせず、ひたむきにサッカーに打ち込む彼女の中学時代の姿を先ずは劇場版でご覧いただきたいと思います。それを観た上でTVアニメ版「さよなら私のクラマー」をご覧いただくと、TV版アニメから見るよりもお話が理解しやすく、面白さが2・3割アップいたします。
こちらのTV版の原作漫画は、「月刊少年マガジン」2016年6月号~2021年1月号まで連載され、全14巻が発行されています。原作をもとにTVアニメ化されて2021年4月~6月に”日テレBS”で全13話が放送されました。インターネットでは”dアニメストア”、”Amazonプライム・ビデオ”、”U-NEXT”の他、多くのチャンネルで配信されております。監督/”宅野 誠起”さん、脚本/”高橋 ナツコ”さん、キャラクターデザイン/”伊藤 依織子”さん、アニメーション制作/”ライデンフィルム”です。
日本男子サッカーと比較され、まだまだ人気スポーツと言い難い女子サッカーそのものの在り方と、それを支えている女子サッカー選手たちの様々な姿、そして日本女子サッカーを明るい未来へと牽引しようと努力するサッカー指導者たちにもスポットが当てられ、多面的に構成された”ドキュメンタリーチックかつ情熱的な、”女子熱血スポ根アニメ”に仕上がっております。
原作者の新川 直司さんは、日本女子サッカーが抱える現状課題をストーリーに織り交ぜながら描くことで、読者に女子サッカーにもっと注目してほしい、というメッセージ性を持たせながら作品を世に出されたような気がします。女子サッカーが強くなるためには競技人口が増えることは必須であり、先生はそれも想定した上で女子サッカー漫画を観てサッカーをやってみたくなる女子が増えるよう、カッコイイ女子を描いたのかな、なんて想像もいたします。
サッカーでは、カッコイイ足技・トリッキーな足技がいくつもあります。作品に出てくる彼女たちは時に試合の中で男子顔負けの足技プレーを披露してくれています。例えば、ドリブル中に相手に背中を見せながら体を反転して一瞬で反対方向へ切り返しドリブルで相手を抜き去る、フランス代表のジダン選手の代名詞”マルセイユ・ルーレット”。あるいは、ボールをまたいでフェイントをかけるドリブル”シーザス”。足の甲の外側(アウトサイド)で右に運ぶと見せかけて一瞬で足の甲の内側(インサイド)に乗せ換えて左に切り返すドリブル”エラシコ”など。女子サッカーアニメと侮るなかれ、「キャプテン翼」に出てくるアクロバティックな足技とは違った、サッカー上級者なら使いこなせるリアルでファンタスティックな個人技をとくとご覧下さいませ。

中学まではサッカーにおいては男女の区別を意識していなかった希。女子と一緒にサッカーをやっていたら自分の能力が衰えてしまうとまで彼女は思っていました。しかし、中学のサッカー部の顧問に希は諭されるのです。「高校に行ったら男女のフィジカル面の差はますます広がり、試合にはもっと出れなくなる。お前はそれでいいのか。せっかくの才能を埋もらすな。お前の力で女子サッカーを盛り上げていくんだ」と。
高校生になった希は埼玉県立蕨青南(わらびせいなん)高校の女子サッカー部に入ります。今まで男子サッカーしか知らなかった希ですが、同じチームに才能のある女子が何人かいることがわかり、次第に希の心はワクワクし始めるのでした。弱小だった蕨青南高校ですが、新1年生の中には俊足フォワードの”周防(すおう)すみれ”、中学全国3位になった戸田北中学のミッドフィルダー(司令塔)でU-15日本代表だった”曽志崎 緑(そしざき みどり)”がいたのです。一緒にプレーしてみて女子サッカーもまんざらでもない手ごたえを感じた希。
そんな弱小・ワラビーズに、女子サッカー界のレジェンド・元日本代表の”能見 奈緒子”がコーチとして就任するのでした。実は、能見は蕨青南高校の卒業生だったのです。着任早々、能見は全国優勝もたびたび果たすほどの神奈川県の強豪、久乃木学園と練習試合を組むのです。それは能見コーチのかつての恩師が久乃木学園の現監督をしているという人脈あっての特別な計らい。全国トップレベル高校と戦ってコテンパンにやられ、今の自分たちの実力を知ってなお這い上がれるチームかどうかを見極めるテストマッチと能見は考えていたのです。
当然ながら 力の差は歴然。21対0のシャットアウトで蕨青南は大敗します。女子でもすごいやつがいることを知った希は、打倒・久乃木学園を誓うのでした。しかし、久乃木学園とリベンジマッチを果たすためには蕨青南高校自身が実力で大会公式戦を勝ち進み、埼玉県代表校となって関東大会で久乃木学園と当たらなければ再戦はできないのです。同じ県下には、全国大会常連校の浦和邦成もいて、彼女たちの前に大きな壁となって立ちはだかります。
希たちはとてつもないその大きな目標に向かって突き進む決意をします。先ずは埼玉県代表になる。そのために私たちは強くなると。強くなるためには男子サッカー部と一緒に練習をさせてもらって実力をつける。しかし、世の中そんに簡単に事は運ばず・・・。能見コーチはコーチで、攻めの選手だったので攻め方は教えられるのですが守備の指導や戦術についてはからっきし駄目だったのです。課題が山積みのワラビーズ。彼女たちは本当に強くなれるのでしょうか?久乃木学園と再び戦う日は訪れるのでしょうか?
劇場版・TV版、どちらの作品も、主人公・恩田 希の真っ直ぐな生き方が作品の軸と言えるでしょう。サッカーが好きだからひたすら練習する、試合に出たいから監督に魅せるプレーで猛アピール、試合で自分が得点を決めたいから、ボールが回ってくるまでは力を温存し、ここぞというチャンスに集中して全力でゴールを目指す、自分のプレースタイルは絶対に変えない(テクニックで相手をかわしてゴールする) 。

すべては希が自分でやりたいこと、成し遂げたいことに向かっての積み重ね・行動なんだと思います。それを推し進める強い気持ちこそが彼女の原動力。サッカーの中では、人々を魅了するプレーをする人のことを”ファンタジスタ”と呼びます。特に攻撃のポジション(ゴールを決める)の人に使われる言葉で、特別な人だけがそう呼ばれます。彼女のサッカーは目指すところ、人々を魅了するようなサッカー、そして成りたいのはそのファンタジスタ”なのでしょう。周りもきっと、彼女にそのファンタジスタになってもらいたいと期待を込めています。日本の女子サッカーの未来も同時に託して。
かつての日本女子サッカーチームは、2011年FIFA女子ワールドカップ・ドイツ大会において、日本男子でさえも前人未踏である”優勝”という偉業を華々しく成し遂げたのでした。ちなみに”なでしこジャパン”を優勝に導いた立役者”澤 穂希”さんは大会得点王&大会最優秀選手賞の栄誉も手にしました。その大躍進は、東日本大震災が起こったその年のとても晴ればれとした出来事であり、日本人にとって大変勇気づけられるトピックスだったと思います。その翌年にはロンドンオリンピックで銀メダルにも輝いています。男子サッカーの存在に埋もれていた女子サッカーですが、これらの出来事で一気に女子サッカーが注目されることとなります。
しかしながら、ワールドカップ6度出場のギネス記録保持者でもある日本女子サッカー界のレジェンド・澤さんが2015年に引退して以降、大きな国際大会での日本の戦績はやや後退しており、澤さんに代わるようなスーパースター選手も鳴りをひそめてしまったかに見えるのが現状です。これから先、好戦績とスーパースターの存在という歯車がうまく噛み合うことが出来れば、日本女子サッカーは再び輝きを取り戻すことが出来るでしょう。そうした日がまた訪れることを私も願っております。
この作品、「さよなら私のクラマー」というタイトルの中の”クラマー”とはいったい何なのか?どこからきているのか気になりませんか?クラマーとは人の名前です。ドイツ・ドルトムント出身のサッカー選手であり、サッカーの指導者でもあったデットマール・クラマー。彼は1960年に日本サッカー界に招かれた外国人コーチで、サッカー日本代表の基礎を作った人であり、日本サッカーリーグ創設にも尽力されたことから、「日本サッカーの父」と言われています。
原作者の新川先生はサッカーが好きで、彼が亡くなった後に彼を忍んでこのタイトルをつけたのではないかと言われているようです。それともう一つ、日本サッカー界において、サッカーは男性だけのスポーツという枠から早く女子サッカーが脱却して、女子独自のサッカーというポジションを確立すべく未来へ独り歩きしていってほしいという願いもあり、このようなタイトルをつけたのでは?という説もあります。いずれにしてもとても感慨深いタイトルだなって思います。
人より抜きん出た才能を持つ人は希少なだけに我々の知らない孤独との戦いも背負っているようです。個人プレーならそれもありですが、チーム競技では競技人口が少ないことでその才能が伸び悩む危険があるという事も無きにしも非ず、という事でしょうか。一人の少女のサッカープレースタイルから見える、自分のしたいことを貫き通すぶれない生き方、あるいは決して途中で投げ出さない、最後まであきらめない気持ちの持ち様など学ぶべきところもたくさんあります。また、女子サッカーの課題から見える、各スポーツやその他の組織にも繋がる組織づくりの在り方など、結構、奥深いことまで描かれている作品かと思われます。女子サッカーに興味がある人にはもちろん、そうでない人にも十二分に楽しめる作品ですので、ぜひ、一度ご覧くださいませ。
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